映画レビュー 999

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『海炭市叙景 』生きることは耐えること

生きることは耐えること

 

あらすじ:北国の小さな町・海炭市の冬。造船所では大規模なリストラが行われ、職を失った颯太(竹原ピストル)は、妹の帆波(谷村美月)と二人で初日の出を見るため山に登ることに……。一方、家業のガス屋を継いだ晴夫(加瀬亮)は、事業がうまくいかず日々いら立ちを募らせていた。そんな中、彼は息子の顔に殴られたようなアザを発見する。

 

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みんな何かに耐えて生きている。街中が雪に覆われそこに住む人々の耐えている姿が浮かびあがってくる。

兄は時代の波に耐えて船を漕ぎ出さなくては、ならなかったが耐えきれなかった。

 

いくらなんでも貧乏すぎないかいと思いつつも・・・世界観に引っ張られた。

立ち退きに応じない、ばあさんが家の前に座るカットは海炭市の全てが表現されている様だ。

青い屋根に積もった白い雪は寒さと雪の重みに必死に耐えている。

抜けに見える新興住宅街は寒さや雪なんて気にも止めていない。

北海道の冬は野良猫とて生きていくのは不可能だが、春になると何事もないように戻ってくる野良猫。

野良猫の強さ、人間の貧弱さ。

 

プラネタリウムの上映をする仕事をしている夫は妻の浮気に気付き、息子を味方につけようとするがうまくはいかない。

妻を問詰めるが上手くいかない。

悪い妻、南果歩がいい。

 

ガス屋の若社長は時代の波に乗るべく、行動しているが、それも上手く行かない。

時代に乗っても上手くいかないし、乗らなくても上手くいかない。

社会に耐える若社長耐え切れなくて妻に当たる。

妻は夫婦生活に耐えられなくなり、息子に当たる。子供は只耐える。

若社長は足にガス管を落としてしまう。早くどかせばいいのに耐えている。

耐えている自分の罪に耐えている・・・のか?

早くどかせよと思うが・・・。耐えている。

 

東京に出て行った青年は、海炭市に帰ってくる。

友人がいる訳でもないし家族に会うわけでもないのに。

なにも無くても耐えなくては生きて行けない土地だとしてもそこに帰りたくなる。

場末のバーでは、人生がここにしかない様にホステスが騒いでいる。

それもなんだか虚しい。

笑っている人物がでるのは、ここと、冒頭回想の教室だけだったと記憶している。

教室の生徒は笑ってはいるが、数年後は、この【海炭市叙景】にでてくる、登場人物になっていると思うと、これも虚しく感じる。

 

路面電車で、主人公になりえない人々が交差する。

そこに少し救いを感じるも回想で幼い兄弟が歩いて行くカットにはゾッとした。

兄が影に入り消える。

このカットは偶然撮れてしまった様に見えるが、偶然ではないだろうと思う。が偶然にしか見えない所が凄い!怖い。すばらしい!

 

熊切監督の最高傑作は「揮発性の女」だろうと思いつつも本当にすばらしい作品だった。

もっと長いロングバージョンも見てみたい。

しかし生きることはなんて辛いことだろう・・・。

生きることは耐えることだ、それが現実で真実だ

 

 

海炭市叙景 (小学館文庫)

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